今回のコロナウイルスをきっかけに、中小企業でも「在宅勤務(テレワーク)」導入が進んでいます。緊急措置の意味合いが強かったため、きちんとした取り決め無しに見切り発車した会社様が多いかもしれませんが、本来行うべき就業規則改定(在宅勤務規程作成)時のポイントを解説します。
目次
在宅勤務規程(テレワーク規程)がなぜ必要か?
今まで「事業所勤務」のみを前提としていた会社が、新たに在宅勤務を導入することになると、例えば以下の点について取り決めが必要です。
・「在宅勤務を命じる(認める)ケース」として、どんな場合(根拠)を想定するか?
・「労働時間の管理」をどのように行うか?
・「通信環境/通信機器等の準備、および費用負担」をどうするか?
これらの取り決めは、全て「就業規則」に定めるべき内容です。原則として、「従業員数10名以上」の事業所では「就業規則」の作成義務があり、上記規定の変更(追加)を行い、労基署に届け出る必要があります。
作成する書類の形式として、
・「就業規則本則」の中に新たな規定を追記するか、
・「在宅勤務(テレワーク)規程」として、別冊で作成するか
はどちらでも構いませんが、条文数が20程度になる場合が多く、実務上は別冊で作成する会社が多いですね。
それでは、「在宅勤務(テレワーク)規程」に定めるべき5つのポイントを解説していきます。
ポイント1.「対象者」をどのように定めるか?
「在宅勤務に適した対象者」として、例えば「職種」で見ると
・通信機器/webシステム等を使って業務を行う職種
・外回りが多い職種
は、そもそも在宅勤務向きです。一方で、
・事務所での顧客対応(電話対応)が必要な職種
・紙面や現物を取り扱う職種
は、通常は在宅勤務の対象に入れづらい職種です。
また、個人の「能力」や「信頼感」も重要な要素であり、
「自己管理能力」にそこまでの信頼感が持てない場合は難しいでしょうし、
通常であればすぐに口頭でやりとりできる内容をメールやチャットツールなどでコミュニケーションをとるため、逆に「高いコミュニケーションスキル」が求められることになります。
ですので、例えば
・「勤続1年以上」とか、
・「正社員」といった雇用形態で区切ったり、
・「主任以上」といった階層で区切ったり
する場合が多いです。
ただ、今回は「非常時」ですので、上記の「平常時」と比べて広い対象者とするのであれば、その旨の規定も入れておく必要があります。
ポイント2.在宅勤務ならではの「服務規定」
「服務規定」というと固いイメージですが、要するに「~してはいけない」「~しなさい」という「べからず集」のことです。
在宅勤務の場合は、特に「情報セキュリティ」の観点から、
・社内からの情報持ち出し/コピーの制限
・決まった場所(自宅なら自宅)のみでの勤務
・公衆無線LANの使用禁止
などの規定が必要です。
あとは、どうしても管理者(上長)の目が行き届かなくなりますので、「サボタージュ」の観点から
「在宅勤務中は職務に専念すること」
という規定も入れます。どこまで実効性があるかは何とも言えませんが、、。その他、
「報告方法や報告頻度のルール」
なども必要に応じて規定します。
ポイント3.「労働時間」についての取り決め
これが非常に重要な点になります。
選択肢としては、ざっと以下の通りです。
①実労働時間を打刻(報告)
・メールや電話等で、業務開始時・終了時を上長に報告、
あるいは、
・勤怠システムにより出退勤時刻を打刻
することにより、実労働時間管理を行います。あくまで、これが基本ルールです。
②みなし労働時間
いわゆる「事業場外みなし労働時間制」というもので、労働時間の算定が困難な場合は、実労働時間に関わらず、
例えば「1日8時間労働したものとみなす」
と就業規則に規定しておけば、その時間働いたものとして勤怠管理・給与計算を行います。
「在宅勤務」においてこの「みなし労働時間制」を採用するには、上記のように「労働時間の算定が困難である」ことが必要です。
ですので、
・上長との通信連絡ルートが確保されている?
・上長の具体的な指示に基づいて行われる業務か?
により、適用できるかどうかを総合的に判断します。
③フレックスタイム制
いかにも「在宅勤務向き」な印象を受けますが、フレックスタイム制の概念としては
「勤務場所の柔軟性」の話でなく、「勤務時間帯の柔軟性」の話ですので、そこは「在宅勤務」とは区別しておく必要があります。
単に「在宅勤務だからフレックスタイム制」ととらえると、拡大解釈になりがちですのでご注意ください。
同時に「勤務時間の柔軟性」も持たせる必要があれば合わせて定めることとし、またフレックスタイム制の導入単体での「労使協定」も必要となってきますので、ご注意ください。
【時間外労働について】
ここは、上記の「出退勤管理」あるいは「みなし労働時間」がきっちり確定すれば、通常の事業所勤務者と同様に管理・計算することになります。
それよりも、運用面で注意したいのが、
上長や同僚、顧客とメールやチャットツールなどでやり取りしていると、どうしても「時間の区切り」が曖昧になってしまい、
例えば、勤務時間が過ぎてから上長がmailを送ったりするなど、ズルズルと実際の勤務時間が長引いてしまいがちです。
それによって、無駄な残業代が発生したり、サービス残業が発生するようなことになってしまってはよくありませんので、その点は、本人と上長の双方が意識的にけじめをつけて臨む必要があります。
ポイント4.「賃金」についての取り決め
「在宅勤務だから」という理由だけで、「基本給」を下げたり「諸手当」が減ったりすることは「不利益変更」になりますのでご注意ください。
あくまで、上記の労働時間管理により算出された勤怠データを基に、公正な給与計算を行ってください。
一方で、在宅勤務と同時に「勤務時間短縮」を行うのであれば、「雇用契約書」や「労働条件通知書」にきちんと取り決めをしたうえで、短縮された時間分の単価を減額することは可能です。
あと、賃金で扱いが変わってくるのが「通勤手当」についてです。
通勤日数が減るので、その分通勤手当が減額されるのが一般的な考え方でしょうが、
例えば「自宅からの距離や公共交通機関料金に応じて通勤手当を支給」
という規定の「書きぶり」だけでは、「減額する根拠が無い」といったトラブルにもなりかねませんので、適正な扱いができるよう、通勤手当の規定文を訂正しておきましょう。
ポイント5.在宅勤務に要する「費用負担」をどうするか?
これは在宅勤務ならではの問題ですが、例えば
・通信費(インターネット接続費用・携帯電話料金)はどちらが持つのか?
・文具/備品/郵送費の負担は?
・パソコンやプリンターの購入が必要になった場合は?
・パソコンやプリンターの会社からの貸与はあるのか?
・ウイルス対策ソフトの費用は?
といった取り決めが必要となります。
本人が自宅で私的に利用する部分が混じれば、その分の按分・切り分けを求めるのは当然のことですが、会社としても自宅勤務を勧める以上は、責任を持った必要負担を心掛けてください。
以上、「在宅勤務規程(テレワーク規程)」作成のポイントの解説でした。
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