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みなし残業(固定残業時間)の上限45時間を超えると違法になる?法律を遵守してブラック企業にならないためのポイント

みなし残業(固定残業時間)は残業代をあらかじめ給与の一定額に含めておく制度です。

企業にとっては従業員の人件費や労働時間を管理しやすくするなどのメリットがあります。
みなし残業には36協定の内容も踏まえてみなし残業時間数を設定するなど、法律によって守らなければいけないルールに注意しなければなりません。

この記事ではみなし残業時間に関して遵守しなければならない法律やみなし残業制度を導入するポイントについて解説します。
ブラック企業とならないように、従業員を守るための制度運用を心がけましょう。

<この記事で分かること>
・みなし残業時間(固定残業代制度)とはどんな制度?
・みなし残業時間の上限は45時間?
・残業時間が45時間を超えるとどうなる?
・みなし残業を導入するメリットとデメリット
・みなし残業を導入する際に守るべき法律やルールとは?

目次

みなし残業時間(固定残業代制度)の仕組みとは

みなし 残業 45 時間

みなし残業時間(固定残業制度・定額残業代制度)とは特定の残業時間(時間外労働)を働いたとみなす制度です。

通常の給与は基本給のほかに残業時間に応じて残業代を支払うのですが、みなし残業時間ではあらかじめ残業したとみなして労働時間を計算します。
みなし残業を超えて残業をした場合は追加で残業代を支払わなければなりません。

みなし残業制度を活用する際は労働基準法を遵守する必要があります
労働基準法とは労働条件に関する最低基準を定めており、労働者を守るための法律です。

「みなし残業時間制」と「みなし労働時間制」の違い

「みなし残業時間制」と似た用語で、「みなし労働時間制」という制度があります。

「みなし労働時間制」は、1日において通常勤務する時間(所定労働時間)自体を、一定の時間であるとみなす制度です。

みなし労働時間制度には以下3種類の制度があります。

  • 事業場外みなし労働時間制
  • 専門業務型裁量労働制
  • 企画業務型裁量労働制

事業場外みなし労働時間制

「事業場外みなし労働時間制」とは社外の仕事が多く、また使用者の指揮監督が及ばない場合に、労働時間の管理が難しい職種に使われる制度です(労働基準法第38条の2)。

対象となる従業員については「対象とする業務」「みなし労働時間」「有効期間」の3つを労使協定で定める必要があります。

【事業場外みなし労働時間制】
労働者が労働時間の全部又は一部について事業場外で業務に従事した場合において、労働時間を算定し難いときは、所定労働時間労働したものとみなす。ただし、当該業務を遂行するためには通常所定労働時間を超えて労働することが必要となる場合においては、当該業務に関しては、厚生労働省令で定めるところにより、当該業務の遂行に通常必要とされる時間労働したものとみなす。

引用:労働基準法第38条の2

専門業務型裁量労働制

「専門業務型裁量労働制」とは従業員の裁量にゆだねた働き方をする職種に使われる制度です(労働基準法第38条の3)。
専門的な業務を行う従業員について裁量のある働き方を可能とするために用いられます。

専門業務型裁量労働制の対象となるのは以下19種類の業務です。

1.新商品若しくは新技術の研究開発
2.情報処理システムの分析又は設計の業務
3.新聞若しくは出版の事業における記事の取材若しくは編集の業務など
4.衣服、室内装飾、工業製品、広告等の新たなデザインの考案の業務
5.放送番組、映画等の制作の事業におけるプロデューサー又はディレクターの業務
6.コピーライターの業務
7.システムコンサルタントの業務
8.インテリアコーディネーターの業務
9.ゲーム用ソフトウェアの創作の業務
10.証券アナリストの業務)
11.金融商品の開発の業務
12.主として研究に従事する業務
13.公認会計士の業務
14.弁護士の業務
15.建築士の業務
16.不動産鑑定士の業務
17.弁理士の業務
18.税理士の業務
19.中小企業診断士の業務
(参考:専門業務型裁量労働制|厚生労働省)

企画業務型裁量労働制

「企画業務型裁量労働制」は経営企画など事業の運営にかかる重要な意思決定を行う業務を行う従業員に関する制度です。
本制度が適用された従業員は実際の労働時間に関係なく、あらかじめ定められた時間を労働したとみなされます。

創造性豊かな人材が自律的で自由度の高いフレキシブルな働き方を遂行するために用いられます。

みなし残業はなぜ45時間まで?

それでは、話題を「みなし残業時間制」に戻します。

みなし残業の上限は特に定められていませんが、一般的には45時間がみなし残業時間の上限と解釈されています。

労働者の同意がなく45時間を超える残業時間は違法です。
残業時間が45時間を超える場合は、企業と労働者の間で36協定(特別条項)を交わす必要があります。

36協定(サブロク協定)

36協定(サブロク協定)とは企業と労働者の間で結ばれる労使協定です。
協定の根拠となる「労働基準法第36条」の条文からこのような名前で呼ばれているのです。

通常、36協定では1ヵ月あたり45時間(および1年あたり360時間)以内の残業をする場合に、企業と労働者が取り決めを行います(一般条項)。
企業が36協定に違反して残業を課した場合、刑事罰に処せられる可能性があります。

【36協定とは】
使用者は、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定をし、厚生労働省令で定めるところによりこれを行政官庁に届け出た場合においては、その協定で定めるところによって労働時間を延長し、又は休日に労働させることができる。
(中略)
労働時間を延長して労働させることができる限度時間は、1箇月について45時間及び1年について360時間とする。

引用:労働基準法第36条

80時間以上の残業は過労死ライン

厚生労働省によると、100時間の残業あるいは2ヵ月から6ヵ月の平均が80時間を超える残業は過労死に相当するとされています。
これらの水準を超える労働は脳や心臓の疾患に関連する可能性が高くなるとされており、危険な労働時間水準です。

長時間の残業は従業員の健康を損なうだけでなく、命を奪いかねないため、労働時間の上限は厳しく管理する必要があります。

基本給と固定残業代の関係

みなし 残業 45 時間

みなし残業代は残業代を固定の額にするため基本給と混同しやすいですが、基本給と残業代は異なるものです。
残業時間を少なく抑えることは従業員の健康を保つために必要です。

基本給と残業代の関係について確認していきましょう。

超過分の残業代は支払う必要がある?

みなし残業代は残業時間を固定するための取り決めです。

そのため、みなし残業時間を超えた超過分は従業員に支払う義務があります。
例えば、みなし残業時間を30時間と設定している場合に45時間の残業をした場合、差額の残業代として15時間分の残業代を支払います。

また、みなし残業を採用している企業が求人票に載せる場合、「基本給与〇〇万円+みなし残業代〇万円」のように基本給与とみなし残業代を分けて記載しなければなりません。

ホワイト企業・ブラック企業の残業時間

残業が長い企業は「ブラック企業」と呼ばれることがありますが、実態として企業の残業時間はどれぐらいでしょうか?

ひとつの目安としては、1ヵ月あたりの残業が20時間以内であれば、1日あたりの残業時間が1時間ほどなので、通常で考えれば無理のない設定といえるでしょう。

一方で、ブラック企業と呼ばれる企業は、1ヵ月あたりの残業が45時間を超えることが多いです。
最初から、1日2時間を超える残業を設定していることが、業務の設計として無理があると言えます。もちろん、人によっては45時間を超えなくても、30時間ほどで体力的・精神的にきついと感じることもありますので、必ずしも45時間以内であれば問題無し、と言えるものでもありません。

ブラック企業は勤怠管理をしていない場合もある

一般的にブラック企業と呼ばれる企業は正しく勤怠管理をしていない場合もあります。
タイムカードを記録させないなど、実態と離れた労働時間を計算することは違法です。

労働時間を正しく管理するだけでなく、正しい勤怠管理ができる体制を整えるようにしましょう。

みなし残業時間制のメリット

みなし 残業 45 時間

みなし残業時間制を導入する企業側のメリットとして、以下2点が挙げられます。

  • 人件費が管理しやすくなる
  • 業務効率が上がる

メリット1.人件費が管理しやすくなる

人件費は繁忙期には多くなり、月によって変動が大きいものです。

みなし残業制度を採用することで、人件費の変動が少なくなります。
そのため、人件費を管理する側からすると毎月一定の人件費として予測しやすくなるのです。

メリット2.業務効率が上がる

みなし残業制度を採用することで業務効率が上がる場合があります。

みなし残業がない場合、従業員は「残業代を稼ぐために長時間働く」という人が出てくるかもしれません。
みなし残業制度を導入することで、残業時間に関わらず給与が一定になるため「残業しても仕方ないから早く帰ろう」という意識づけに繋がります。

みなし残業時間制のデメリット

みなし 残業 45 時間

みなし残業制度は企業にとって良いことばかりではありません。
以下の通り、みなし残業のデメリットに注意しながら導入を検討しましょう。

  • 残業時間の有無にかかわらず残業代が発生する
  • サービス残業が発生しやすくなる

デメリット1.残業時間の有無にかかわらず残業代が発生する

企業側にとっては、みなし残業制度を導入することで残業時間が発生していない従業員にも残業代を支払わなければならないというリスクもあります。
人件費が定額になって管理しやすくなる反面、みなし制度の導入で人件費が高くなってしまう可能性もあるのです。

デメリット2.サービス残業が発生しやすくなる

みなし残業はサービス残業が発生しやすくなることもあります。

現場が残業時間ありきで業務を進めてしまうと定時で帰りづらい雰囲気に繋がってしまうことがあります。

みなし残業制を導入するポイント

みなし 残業 45 時間


残業時間についてトラブルを起こさないためには、就業規則や雇用契約書に、みなし残業時間制度に関する条項を明記しましょう。

  • 就業規則に明記する
  • 求人広告に明記する
  • 基本給とみなし残業代を分けて記載する
  • 最低賃金法に注意する

ポイント1.就業規則・雇用契約書に明記する

就業規則は使用者(企業)による労働条件や職務上の規則を明記する規則です。
就業規則に記された事項は使用者と労働者で同意がされているとみなされます。

みなし残業制度を導入する場合、就業規則や雇用契約書に、みなし残業に関する時間外労働時間や残業代を明記しましょう。

全従業員にみなし残業時間制を適用しない場合は、個別の雇用契約書(労働条件通知書)への明記のみでも構いません。
就業規則や雇用契約書には、みなし残業に関する条項およびみなし残業時間を超えた場合の割増賃金についても明記します。

ポイント2.求人広告・募集要項に明記する

みなし残業に関する取り決めは就業規則に明記するだけでなく、求人広告や募集要項にもみなし残業に関する取り決めを明記する必要があります。

新規に採用する従業員に誤解を与える広告にならないように注意しましょう。

ポイント3.基本給とみなし残業代を分ける

みなし残業代は基本給とは別に管理しなければなりません。

みなし残業代を基本給に含めることは違法となるため、基本給とみなし残業代は別物として取り扱いましょう。

ポイント4.最低賃金法に注意する

みなし残業代を設定する場合、基本給が最低賃金を下回らないようにする必要があります。
最低賃金は最低賃金法によって定められており、都道府県によって異なるものです。

令和5年度 都道府県別最低賃金【最新情報】~最低賃金割れのチェック方法と必要な措置は?

みなじ残業を支払ってるからといって、基本給が最低賃金を下回る金額に設定することは違法となるため注意しましょう。

法律遵守を心がけて正しい残業制度の運用をしよう

みなし 残業 45 時間

みなし残業制度(固定残業代制度)は企業にとって残業時間を管理し、人件費を把握しやすくするために便利な制度です。
労働時間の管理が難しい仕事や、専門的で裁量のある仕事についてみなし残業制度が有効となります。

みなし残業制度によって残業時間を管理する際には労働基準法や36協定に気を配りながら法令を遵守しなければなりません
長すぎる労働時間は従業員の健康を損ねてしまうため、法による規制が存在するのです。
企業と従業員の間でトラブルを避けるため、就業規則等で合意を得る必要があります。

効率的な事業運営をするため、法令遵守や従業員の健康に気を配って従業員の勤務時間を管理しましょう。

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