給与計算の流れとは?控除額の計算や仕事内容|知っておきたいリスクまで

毎月必要な給与計算ですが、計算が必要な項目は多く、正しい計算が求められます。
給与計算は手取り額の計算だけでなく、社会保険料や所得税などの計算も含まれており、複数の計算が必要です。

  • 給与計算をする流れとは?
  • 控除額の計算が必要な内容とは?
  • 給与計算をする上で知っておくべき内容やリスクとは?

給与計算の流れや方法について、まとめました。

 

給与計算の流れ

給与計算流れ

支給額から控除額を差し引いて給与の支払い額を決めるというのが、大まかな給与計算の流れです。
総支給額や控除額の中には、毎月固定の金額だけでなく毎月変動する金額もあり、これらを正しく計算しなくてはいけません。

給与計算に関する内容や流れは、以下のようになります。

  • 総支給額の計算
  • 控除額の計算
  • 賃金台帳・給与明細の作成
  • 給与の支払いと保険料・税金の納付
  • 年末調整の実施

給与計算の基本的な流れについて、確認していきましょう。

 

総支給額の計算

総支給額を決定するには、変動しない固定の金額だけでなく、毎月変動する金額を確認しなくてはいけません。
給与計算で総支給額を計算する際に考慮する項目は、これらの内容です。

  • 基本給
  • 各種手当
  • 通勤手当
  • 住宅手当
  • 家族手当

基本給とは、経験や能力、年齢や仕事内容などによって決められており、交通費や各種手当は含まれていません。
基本給+各種手当が、毎月固定の給与金額です。

各種手当は福利厚生に関しては会社ごとの規定がありますので、規定に応じて支給しましょう。
通勤手当や家族手当など、基本的には固定の項目も時には変動する場合もありますので、常に従業員情報を正しく把握しておく必要があります。

控除額の計算

給与計算やり方

総支給額が出たら、控除額も正しく計算します。
主な控除の内容はこちらです。

  • 欠勤控除
  • 社会保険料
  • 雇用保険料
  • 住民税
  • 所得税
  • 労使協定の控除

 

欠勤控除|休んだ分は控除の対象に

従業員の都合により、遅刻や欠勤で仕事をしなかった分は、雇用主はその分の賃金を支払う義務がありません。
給与明細書には「欠勤控除」や「勤怠控除」と記載したり、遅刻・早退の場合は「不就労控除」と記載する場合もあります。

 欠勤控除は「月給÷所定労働日×欠勤日数」で、計算可能となります。
一般的に有給休暇は事前申請をするべきですが、後日申請でも有給扱いにできるとしている会社の場合は、有給休暇で欠勤控除をつけないように注意しましょう。

 

社会保険料 |健康保険・厚生年金・介護保険の3つ

社会保険料とは、会社と従業員がそれぞれ負担する物で、健康保険、厚生年金保険、被保険者が40歳以上の場合のみ徴収される介護保険の3つが含まれています。
社会保険料は給料の一定割合と決まっていて、原則毎月の金額は一定となります。

健康保険料は治療費を国が一部負担するための物で、厚生年金は将来受け取る年金の財源となる物です。
介護保険は、40歳以上になると加入と納付が義務付けられており、将来的に自身が介護が必要になった場合には1割負担で介護サービスを受けられるようになります。

 

金額の決め方は、標準報酬月額を元に計算されます。
標準報酬月額は、4月から6月の3ヶ月間の平均支給額によって計算された金額で、等級ごとに保険料が異なります。

詳しい等級や金額については、こちらを参考になさってください。
被保険者の方の健康保険料額(令和5年3月~)|全国健康保険協会

 

雇用保険料 |もしもの退職・失業時のために

給与計算保険料

雇用保険とは、従業員が何等かの理由で退職や失業をした時に、給与の代わりとなる失業等給付を支給するための保険です。
この保険の掛け金を「雇用保険料」として、毎月の給料から控除します。

雇用保険料も雇用主と従業員の双方で負担します。
一般事業の雇用保険料は、額面賞与の0.9%となり、この内0.6%を雇用主が負担し、0.3%を従業員が負担します。

負担割合は業種によって異なりますので、詳しくはこちらをご覧ください。
雇用保険料率について|厚生労働省

 

住民税 |地域のために使われる

住民税は、その地域の教育や防災のための備え、福祉のために使用されています。
前年の1月から12月までの所得に応じて決められた分が、6月から翌5月の給与から控除されますので、前年の給与収入がない場合や、社会人1年目は住民税は引かれません。

5月から6月頃に住所のある自治体から住民税決定書が送られてきますので、確認しましょう。
住民税の計算方法はどこの自治体でも同じですが、独自の税金がかかるなど、金額に差が出る場合もあります。

住民税の金額は給与の値段にも反映されるため、6月頃に住民税の値段が変わると従業員からの問い合わせがある場合もあります。
手取りが少なくなったと感じる方もいますので、問い合わせや相談には対応できるようにしておきましょう。

 

所得税 |翌10日までに雇用主が国に納める

給与計算税金

所得税とは、その年の1月1日から12月31日に得た所得に応じて課される税金です。
課税対象となる所得とは、給与全額ではなく、給与所得控除や配偶者控除などの控除額を差し引いた金額です。

所得税は給与の支払いの度に引かれるので、社会人1年目から毎月所得税がかかります。
1年分の所得を対象にした税金ですが、1年に1回の控除だと従業員の負担が大きくなるので、毎月給与から引かれる仕組みになっています。

従業員の給与から差し引いた所得税は、雇用主が翌10日までに国に納める必要があります。

所得税の税収については、こちらをご覧ください。
令和5年分源泉徴収税額表|国税庁

 

労使協定の控除|就業規則を確認しよう

労使協定とは、従業員と雇用主の間で取り交わされる書面での協定です。
労使協定の内容は事業場単位で異なりますが、就業規則で明記されている内容を控除します。

代表的な協定に時間外、休日に関する協定があります。
さらに、労働組合費や社宅などの福利厚生施設の利用費、会社で加入する生命保険料や財形貯蓄も労使協定の控除項目に含まれます。

 

賃金台帳・給与明細の作成

支給額と控除額が出たら、給与明細書と資金台帳を作成します。
資金台帳とは、労働基準法によって作成と保存が義務付けられていて、従業員の名前や性別、給与の支払い情報を記録したものです。

賃金台帳は3年間の保存義務がありますが、給与明細は従業員に交付される物で、保存の義務や法的な拘束はありません。
賃金台帳は必須記載項目が決められており、基本給や手当、労働時間数、時間外労働・休日労働・深夜労働の労働時間数などを記載しなくてはいけません。

正規や非正規、パートやアルバイトといった全ての従業員が対象で、1人でも雇っているのであれば資金台帳を忘れずに作成し、保存しておきましょう。

 

給与の支払いと保険料・税金の納付

給与計算給料支払い

手取り額が決定したら、給与を振り込み、税金を納付します。
給与の振り込みは、支給日の3~4日前までに振込データを送付しましょう。

従業員への給与の支払いをし、納入通知書に従って社会保険料を納付します。
所得税や住民税は翌月10日までに、税務署に納めましょう。

 

毎年12月には年末調整の実施

毎年1年の最後の給与支払い日には、間違いがないか再計算を行い、所得税の過不足を計算します。

源泉徴収をした所得税の金額が少なければ追加課税をし、多ければ返金します。

年末調整は毎年1年に1回ですが、年間の所得税額を決定させるために時間のかかる作業です
再度、従業員の家族構成や保険の支払い状況を確認する必要がありますので、スケジュールに余裕をもって取り組む必要があるでしょう。

 

給与計算のポイント

従業員の生活がかかっている給与で、計算ミスがあってはいけません。
ミスがないように給与計算をするには、労働基準法や所得税法などの労務知識が必要となります。

給与計算をする際に気を付けたいポイントはこちらです。

  • 賃金払いの5原則
  • 最低賃金ルール
  • 残業代は正しく支払う

 

賃金支払いの5原則

賃金支払いの五原則

賃金を支払う際の原則として、労働基準法第24条に規定されている賃金支払いの5原則があります。

  • 通過払いの原則
  • 直接払いの原則
  • 全額払いの原則
  • 毎月1回以上支払いの原則
  • 一定の期日払いの原則

通過払いの原則により、日本では給与は現金で給与を支払わなければいけませんので、貴金属や商品券などでの支払いはできません。
直接払いの原則がありますので、配偶者や両親、その他の代理人への支払いはできません。

原則として全額支払われなければいけませんので、労使協定がない場合の強制的な控除は認められません。
毎月1回以上、決まった期日に給与を支払う原則も定められていますので、経営者はこれを遵守して従業員に給与を支払います。

賃金払いの5原則は従業員が確実に賃金を受け取れるための規定なので、厳格に守らなければいけません。

 

最低賃金ルール

「最低賃金法」によって、地域ごとに最低賃金が決められています。
雇用主が支払わないといけない最低賃金で、例え従業員が同意していたとしても、この賃金よりも低い金額での契約は認められません。

正社員だけでなく、パートやアルバイトなどの全ての従業員に適用されます。
最低賃金は、毎年秋に改訂されますので、最低賃金ギリギリの給与設定の場合は、この金額を下回らないように賃金を見直さなくてはいけません。

もし最低賃金を下回った場合には、50万円以下の罰金が科せられます。

最低賃金については、こちらの記事も参考になさってください。
最低賃金制度とは|厚生労働省

 

残業代は正しく支払う

残業代とは、所定労働時間を超えて働いた際に支払う賃金です。
1日8時間、週40時間以上を超えて働いていれば、残業代が発生します。

法定労働時間を超えた場合には1.25倍、深夜の時間外労働になった場合には1.5倍の割増賃金を支払わなければいけません。
残業代、残業手当、時間外労働、超過勤務、超勤、などの呼び方があります。

残業代を支払わないと違法となり、労働基準法第119条により6ヶ月以下の懲役、または30万円以下の罰金に処せられます。

 

給与計算のリスク

給与計算のリスク

給与計算の業務にはこれらのリスクがあり、ミスが起こると訴訟や刑事罰、追徴課税につながる場合もあります。

  • 情報漏洩のリスク
  • 労務のリスク
  • 税務のリスク

 

情報漏えいのリスク

給与計算をする際に従業員の個人情報を漏洩してしまった場合には、個人情報保護法違反になってしまう可能性があり、6ヶ月以下の懲役、または30万円以下の罰金が科せられます。
企業や組織の規模や雇用人数に関わらず、すべての事業者が個人情報取扱事業者として、個人情報を守らなくてはいけません。

個人情報とは、氏名や生年月日、顔写真や住所によって個人を特定できる情報をいいます。
情報漏洩は従業員との信頼関係が崩れるだけでなく、企業イメージも悪化させますので、給与明細や賃金台帳、社員情報は正しく保管しましょう。

 

労務のリスク

労務リスクの例として、残業代未払いがあります。
テレワークの普及によって勤怠の時間管理ができていなかったり、データの移行ミスなどが起こると、残業代が正しく支払われない場合があります。

従業員の精神的・身体的な負担になるだけでなく、企業としての信頼も失いかねません。
労働基準法の違反となった場合には、6ヶ月以下の懲役、または30万円以下の罰金が課せられます。

事態が悪化すると、訴訟や損害賠償の問題にもなりますので、日頃から適切なマネジメントをしていかなくてはいけません。

 

税務のリスク

もしも給与計算を間違えると、従業員が不信感をもってしまうだけでなく、社会保険料や所得税の計算も間違えて計算してしまっています。
申告・納税額が実際よりも少ない場合には、追徴課税を含んだ金額を請求されてしまいます。

追徴課税になると金額の負担が大きくなってしまうだけでなく、書類を再作成したりと事務作業も増えてしまいます。
正しく給与計算をし、各種保険料の計算も間違えないように行いましょう。

 

正しい給与計算を

従業員を雇っていると必ず必要なのが、給与計算です。
給与は毎月必ず同じというわけではありませんので、毎月計算しなくてはいけません。

社会保険料や所得税や住民税の支払いも従業員に代わって行います。
賃金台帳や給与明細を作成したり、12月には年末調整を行ったりと、給与計算にかかわる業務は多くあります。

従業員の生活を守るためだけでなく、税金を正しく納めるためにも、給与計算は正しく行いましょう。

 

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