週44時間特例廃止はいつ?法改正見送りでも人事労務がすべき準備

佐藤東 監修者
社会保険労務士法人はた楽/株式会社はた楽
CEO / Founder
佐藤 東

大阪市立大学(現:大阪公立大学)法学部在学中に、社会保険労務士資格を取得。
株式会社新経営サービスにて、人事制度構築コンサルティングに従事。株式会社アントレプレナーファクトリー執行役員を経て、株式会社はた楽(人事コンサルティング&介護事業)、社会保険労務士法人はた楽を設立。労務DX&給与労務BPOを強みに、全国でサポートを展開中。

週44時間特例とは?対象業種と廃止が検討される背景

人事労務担当者であれば一度は耳にしたことがある「週44時間特例」。正式には「特例措置対象事業場」と呼ばれ、特定の業種かつ小規模な事業場において、法定労働時間を週40時間ではなく「週44時間」とする特例措置です。

まずは、この特例の対象となる条件と、なぜ今廃止が議論されているのか、その背景を整理します。

週44時間特例の対象業種と条件

この特例が適用されるのは、以下の業種に該当し、かつ常時使用する労働者が10人未満の事業場です。

業種区分具体的な事業例
商業卸売業、小売業、理美容業、倉庫業など
映画・演劇業映画の映写、演劇、興行(映画製作は除く)
保健衛生業病院、診療所、社会福祉施設、浴場業など
接客娯楽業旅館、飲食店、ゴルフ場、遊園地など

ポイントは「企業全体」ではなく「事業場単位(店舗や支店ごと)」で判断される点と、パート・アルバイトを含めた人数が常時10人未満である点です。

廃止が検討される背景

長年認められてきたこの特例ですが、厚生労働省の「労働基準関係法制研究会」において見直しが提言されています。主な理由は以下の通りです。

  • 特例利用率の低下:調査によると、対象事業場の約87.2%がすでに週40時間以下で運用しており、特例を使用していない実態があること。
  • 労働者の健康確保:長時間労働を是正し、すべての労働者の健康を守るという観点から、例外をなくすべきという考え方。

週44時間特例の廃止はいつから?法改正見送りの最新動向

多くの企業が気にしている「いつ廃止されるのか」という点について、2026年2月時点での最新情報をお伝えします。結論から言えば、直近の法改正案提出は見送られましたが、廃止の方針自体は変わっていません。

法改正は見送りでも「廃止」の方針は維持

当初、厚生労働省は2026年の通常国会への労働基準法改正案の提出を目指していました。しかし、2025年末から2026年初頭にかけての報道や政府内の調整により、今国会への提出は見送られる方針となりました。

一方で、2025年1月8日に公表された「労働基準関係法制研究会報告書」では、週44時間特例について明確に以下の方向性が示されています。

  • 特例措置は概ねその役割を終えていると考えられる。
  • より詳細な実態把握とともに、特例措置の撤廃に向けた検討に取り組むべきである。

つまり、法改正のスケジュールこそ後ろ倒しになりましたが、「廃止する」という国の方針は維持されており、将来的な廃止は既定路線と言えます。

見送りでも準備が必要な理由

「法改正が見送られたなら、まだ対策しなくていいのでは?」と考えるのは危険です。むしろ、この期間を「猶予期間」と捉え、準備を進めるべき理由があります。

  1. 急な施行への対応:将来的に法改正が決定した場合、施行までの準備期間が短い可能性があります。
  2. 採用競争力の維持:求職者は「週休2日」「残業少なめ」を好みます。週44時間労働は採用面で不利になるリスクがあります。
  3. 業務効率化の好機:労働時間短縮への取り組みは、業務の無駄を省き、生産性を高めるきっかけになります。

週44時間特例が廃止された場合の企業への影響

もし特例が廃止され、週40時間労働に統一された場合、現場にはどのような影響が出るのでしょうか。具体的な数字を交えて解説します。

労働時間・シフトの再設計

最も大きな影響は、労働時間の上限が週4時間短縮されることです。これは月間に換算すると約16〜17時間の労働時間削減が必要になることを意味します。

例えば、これまで「月〜金:8時間勤務、土:4時間勤務(計44時間)」というシフトを組んでいた場合、週40時間制になれば土曜日の勤務がすべて時間外労働(残業)となるか、平日の勤務時間を削って調整する必要が出てきます。

残業代の増加と人件費への影響

労働時間を減らせない場合、週40時間を超えた分はすべて「割増賃金(残業代)」の支払い対象となります。

週4時間の残業が毎週発生すると仮定すると、月間で約16時間分の割増賃金が新たに追加コストとして発生します。従業員数が多い場合や、利益率の低い業態では、この人件費増加が経営を圧迫する可能性があります。

営業体制の見直しと生産性向上への課題

労働時間を短縮しつつ、これまで通りのサービスレベルを維持するには、生産性の向上が不可欠です。単に営業時間を短縮すれば売上減に直結するため、以下のような抜本的な見直しが迫られます。

  • 少人数でも回るオペレーションの構築
  • 予約システムの導入や自動釣銭機の活用などのDX化
  • 不採算な営業時間帯のカット

特例廃止に備えて企業が今から準備すべき5つのこと

法改正が見送られた今のうちに、企業が進めておくべき具体的なアクションプランを5つのステップで紹介します。

1. 労働時間の実態把握

まずは現状把握です。従業員ごとの労働時間が週40時間を超えている週がどれくらいあるかを確認しましょう。「意外と週40時間以内で収まっている」のか、「恒常的に44時間ギリギリ」なのかによって、打つべき対策は異なります。

2. 変形労働時間制などの導入検討

週40時間の枠内で柔軟に働かせるために、「1ヶ月単位の変形労働時間制」の導入を検討しましょう。これにより、繁忙期は週40時間を超えて働き、閑散期は週35時間に抑えるなどして、月平均で週40時間に収める調整が可能になります。

3. 就業規則・36協定の見直し

就業規則に「所定労働時間は週44時間とする」といった記載がある場合、改定の準備が必要です。また、36協定(時間外・休日労働に関する協定届)についても、週40時間を超える部分が時間外労働になることを前提に、限度時間の見直しを行いましょう。

4. 勤怠管理システムの整備

手書きの出勤簿やタイムカードでは、週40時間を超えた時点でのアラート出しや、複雑な残業計算に対応できません。法改正に自動対応し、リアルタイムで労働時間を集計できるクラウド型勤怠管理システムの導入をおすすめします。

5. 採用・育成計画の見直し

1人あたりの労働時間が減る分、業務をカバーするための増員や、短時間で成果を出せる人材育成が必要になります。採用計画を見直し、マルチタスク化を進める教育体制を整えましょう。

週44時間特例廃止への対応で注意すべき2つの労務リスク

制度変更の過渡期には、労務トラブルが発生しやすくなります。特に注意すべきリスクを2点挙げます。

未払い残業代の請求リスク

最も怖いのが、「特例が廃止されたことを知らず、週44時間働かせ続けていた」ケースです。週40時間を超えた4時間分がすべて未払い残業代となり、遡って請求されるリスクがあります。法改正の施行日は常にアンテナを張っておく必要があります。

従業員とのコミュニケーション不足によるトラブル

労働時間の短縮は、従業員にとっては「残業代が減って手取りが減る」という不利益変更と捉えられることもあります。なぜ労働時間を短縮するのか、会社の意図を丁寧に説明し、納得を得ながら進めることが重要です。

まとめ:週44時間特例廃止は生産性向上の好機

週44時間特例の廃止は、法改正の見送りにより一時的に猶予が生まれましたが、将来的な廃止の流れは変わりません。これを単なる「規制強化」と捉えるのではなく、「生産性向上」や「働きやすい職場づくり」へのチャンスと捉えることが重要です。

今のうちから週40時間体制への移行準備を進めることで、採用力の強化や業務効率化といったメリットを享受できるはずです。まずは自社の労働時間の実態把握から始めてみてはいかがでしょうか。

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