2026年4月施行!高年齢労働者の労災防止が努力義務化。企業がすべき5つの対策

佐藤東 監修者
社会保険労務士法人はた楽/株式会社はた楽
CEO / Founder
佐藤 東

大阪市立大学(現:大阪公立大学)法学部在学中に、社会保険労務士資格を取得。
株式会社新経営サービスにて、人事制度構築コンサルティングに従事。株式会社アントレプレナーファクトリー執行役員を経て、株式会社はた楽(人事コンサルティング&介護事業)、社会保険労務士法人はた楽を設立。労務DX&給与労務BPOを強みに、全国でサポートを展開中。

はた楽 高年齢労働者労災防止 努力義務

2026年4月施行!高年齢労働者の労災防止が努力義務化された背景と概要

2026年4月1日に改正労働安全衛生法が施行され、企業における労務管理のルールが大きく変わりました。この法改正により、高年齢労働者が安全に働ける環境を整備することが企業の新たな課題となっています。

特に注目すべきは、これまで推奨にとどまっていた対策が法律に基づく明確な基準へと引き上げられた点です。企業は最新の法令を正しく理解し、速やかに対応を進める必要があります。

労働安全衛生法の改正で何が変わったのか

今回の労働安全衛生法の改正により、高年齢労働者の労働災害防止措置がすべての事業者の「努力義務」として明記されました。具体的には、おおむね60歳以上の労働者を対象に、加齢に伴う心身の変化に配慮した作業環境の改善や作業管理が求められます。

努力義務とはいえ、労働基準監督署による指導や勧告の根拠となるため、実質的な対応が不可欠です。企業規模や業種を問わず、全事業所が対象となる点に注意が必要です。

60歳以上の労災増加と企業に求められる安全配慮義務

法改正の背景には、働くシニア層の増加に伴う労働災害の急増という深刻な社会課題があります。厚生労働省のデータによると、休業4日以上の労災死傷者に占める60歳以上の割合は約30%に達しています。

特に「転倒」や「墜落・転落」、「腰痛」といった事故が多発しており、30代と比較すると労災発生率は男性で約2倍、女性で約5倍にも上ります。企業は安全配慮義務を果たすため、これらのリスクを低減する職場づくりを進めなければなりません。

エイジフレンドリーガイドラインから法的根拠を持つ「指針」への格上げ

これまで高年齢労働者の安全対策は、2020年に策定された「エイジフレンドリーガイドライン」という行政上の推奨事項に基づいていました。しかし、このガイドラインは2026年3月末をもって廃止され、新たに「高年齢者の労働災害防止のための指針」へと移行しました。

この新指針は労働安全衛生法第62条の2に基づくものであり、明確な法的根拠を持つルールへと格上げされたことが最大の特徴です。企業は自社の自主的な取り組みから、法律に則った実効性のある対策へとステップアップすることが求められます。

新指針で企業に求められる「5つの措置」と具体的な実務対策

はた楽 高年齢労働者労災防止 努力義務

2026年4月から適用された新指針では、企業が取り組むべき具体的なアクションが5つの柱として整理されています。これらの措置は、ハード面とソフト面の両方から高年齢労働者の安全を守るための包括的な枠組みです。

各企業は自社の実情に合わせて優先順位をつけ、計画的に対策を実行していく必要があります。ここでは、5つの措置それぞれの概要と、現場ですぐに実践できる実務対策を解説します。

1. 安全衛生管理体制の確立とリスクアセスメントの実施

最初のステップは、経営トップが自ら労災防止の方針を表明し、全社的な安全衛生管理体制を構築することです。現場任せにするのではなく、安全衛生委員会などを通じて労使で話し合う場を設けることが重要です。

その上で、高年齢労働者特有の身体機能低下に伴う危険源を特定するリスクアセスメントを実施します。過去のヒヤリハット事例などを分析し、優先して解決すべき課題を洗い出しましょう。

2. 身体機能を補う職場環境の改善とDX・IoTの活用

2つ目の措置は、加齢による身体機能の低下をカバーするための物理的な職場環境の改善です。段差の解消、滑りにくい床材への変更、手すりの設置、十分な照度の確保など、基本的なハード面の整備が求められます。

さらに近年では、重筋作業の負担を軽減するパワーアシストスーツの導入など、最新技術の活用も有効です。IoTセンサーを用いて作業場の温度や化学物質濃度をリアルタイム監視するDX施策も推奨されています。

3. 高年齢労働者の健康状態と体力の客観的な把握

3つ目の措置は、定期的な健康診断を確実に実施し、労働者の健康状態を正確に把握することです。これに加えて、握力や歩行速度などを測定する体力チェックを導入し、運動機能を数値化することが求められます。

フレイル(虚弱)チェックや転倒リスクのセルフチェック表を活用することで、労働者自身にも自らの状態を認識してもらえます。客観的なデータに基づく評価が、安全な業務配置の基礎となります。

4. 体力に応じた配置転換やワークシェアリングなど柔軟な個別対応

4つ目の措置は、把握した健康状態や体力データに基づき、一人ひとりに適した業務を提供することです。高所作業や重労働からの配置転換を行い、身体的負担の少ない業務へマッチングさせることが重要です。

また、1つの業務を複数人で分担するワークシェアリングの導入も効果的な対策となります。深夜業の削減や短時間勤務など、柔軟な働き方を提供して個別のニーズに対応しましょう。

5. 身体特性の理解を深める安全衛生教育の徹底

最後の措置は、加齢に伴う視力や聴力、バランス感覚の低下といった身体特性に関する安全衛生教育を実施することです。文字だけでなく、写真や動画、VR技術などの視覚的な教材を用いて、十分な時間をかけて丁寧に指導する必要があります。

特に、再雇用などで未経験の業務に就くシニア層には、作業手順とリスクを念入りに伝えることが不可欠です。同時に、現場の管理監督者に対しても高年齢労働者への適切な配慮方法を教育しましょう。

努力義務を放置するリスクと企業が負うべき責任

はた楽 高年齢労働者労災防止 努力義務

「努力義務だからすぐに対応しなくてもよい」と考えるのは、企業経営において非常に危険な判断です。法改正によって国が明確な指針を示した以上、対策を怠ることは重大な経営リスクに直結します。

万が一、職場で労働災害が発生した場合、企業は厳しい責任を追及されることになります。ここでは、安全対策を放置した際に企業が直面する具体的なリスクについて解説します。

労災発生時の安全配慮義務違反と損害賠償リスク

高年齢労働者が転倒や腰痛などの労災事故に遭った場合、企業が新指針に基づく対策を講じていなかった事実が発覚すると、民事上の「安全配慮義務違反」に問われる可能性が高まります。加齢による身体機能の低下は予見可能であるため、対策の放置は企業の過失とみなされやすいのです。

高齢者の事故は骨折などで重症化・長期化しやすく、結果として企業は多額の損害賠償を請求される恐れがあります。法令上の努力義務であっても、裁判では安全配慮義務を果たしたかどうかの重要な判断基準となります。

貴重なシニア人材の流出と採用力低下の懸念

安全対策が不十分な職場では、豊富な経験やノウハウを持つ優秀なシニア人材が定着せず、早期離職を招く原因となります。労働力不足が深刻化する中、貴重な戦力を失うことは企業の生産性低下に直結します。

さらに、労災事故が多発する企業というレッテルを貼られれば、社会的信用やESG経営の観点からもマイナス評価を受けます。結果として企業イメージが悪化し、若手を含めた全体の採用力が著しく低下する懸念があります。

対策コストを軽減する「エイジフレンドリー補助金」の活用方法

高年齢労働者のための職場環境改善には一定の設備投資が必要ですが、その費用負担を大幅に軽減できる国の支援制度が存在します。それが、厚生労働省が実施している「エイジフレンドリー補助金」です。

2026年度(令和8年度)はこの補助金の予算額が前年度比で約25%増の9.5億円に拡充され、より多くの企業が利用しやすくなりました。法改正への対応をスムーズに進めるためにも、この補助金制度を積極的に活用しましょう。

エイジフレンドリー補助金の対象となる取り組みと要件

この補助金は、労災保険に加入しており、60歳以上の労働者を常時1名以上雇用している中小企業が対象となります。2026年度は主に「専門家による総合対策コース」「高年齢労働者の労働災害防止対策コース」「コラボヘルスコース」の3つのコースが用意されています。

補助の対象となる経費は多岐にわたり、滑り止め床材の施工や手すりの設置、パワーアシストスーツの導入などが含まれます。自社の課題に合ったコースを選択し、効果的な設備投資を行いましょう。

コース名補助上限額主な対象経費
専門家による総合対策100万円専門家による指導費用
高年齢労働者の労働災害防止対策100万円手すり、アシストスーツ、スポットクーラー
コラボヘルス30万円健康教育、体力測定機器

申請手続きのポイントと最新情報の確認方法

2026年度の補助金申請は5月下旬から受付が開始されており、予算上限に達した時点で早期終了する可能性があります。申請にあたっては、労働者の意見を聴取した上で、具体的な改善計画を作成することが求められます。

最も注意すべき落とし穴は、補助金の「交付決定日」より前に発注や契約を行った経費は一切対象外となる点です。申請スケジュールや詳細な要件については、必ず厚生労働省の公式サイトで最新情報を確認してください。

  • 予算上限に達し次第終了するため早めの申請が必要
  • 交付決定前の発注・契約は補助対象外となる
  • 最新の公募要領は厚生労働省のサイトで確認する

2026年の努力義務化を機に高年齢労働者の労災防止と人事制度を見直そう

2026年4月の労働安全衛生法改正は、企業に対して単なる法令遵守以上の意味を持っています。高年齢労働者の労災防止に真剣に取り組むことは、すべての従業員にとって安全で働きやすい職場を構築する絶好のチャンスです。

補助金制度などを賢く活用しながら、ハード面の環境整備とソフト面の人事制度改革を両輪で進めていきましょう。シニア人材が健康で長く活躍できる企業こそが、これからの時代を持続的に成長していくことができます。

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