従業員10人未満は就業規則の作成義務なし?メリットや助成金との関係を解説

佐藤東 監修者
社会保険労務士法人はた楽/株式会社はた楽
CEO / Founder
佐藤 東

大阪市立大学(現:大阪公立大学)法学部在学中に、社会保険労務士資格を取得。
株式会社新経営サービスにて、人事制度構築コンサルティングに従事。株式会社アントレプレナーファクトリー執行役員を経て、株式会社はた楽(人事コンサルティング&介護事業)、社会保険労務士法人はた楽を設立。労務DX&給与労務BPOを強みに、全国でサポートを展開中。

はた楽 就業規則作成義務 従業員10人未満

従業員10人未満の企業に就業規則の作成義務はあるのか?

労働基準法第89条では、常時10人以上の労働者を使用する事業場に対して就業規則の作成と労働基準監督署への届出を義務付けています。そのため、従業員が10人未満の企業であれば法律上の作成義務はありません

しかし、作成義務がないからといって就業規則が全く不要というわけではありません。労使間のトラブルを防ぐ目的などから、10人未満であっても自主的に作成する企業は多く存在します。

就業規則における従業員「10人」の正しい数え方

はた楽 就業規則作成義務 従業員10人未満

就業規則の作成義務が生じる「常時10人以上」という基準には、正しい人数のカウント方法が存在します。一時的な人数の増減ではなく、継続的に10人以上の労働者を雇用している状態を指す点に注意が必要です。

繁忙期だけ単発のアルバイトを雇って一時的に10人を超えたようなケースでは、常時10人以上には該当しません。誰を人数に含めるべきか、具体的な基準を正しく理解しておきましょう。

パートやアルバイトは人数に含まれる

従業員数をカウントする際、正社員だけでなくパートタイム労働者やアルバイトも人数に含まれます。雇用形態や労働時間の長さに関わらず、会社と雇用契約を結んで賃金を受け取っている人はすべて対象です。

たとえば正社員が3名であっても、アルバイトが7名いれば合計10人となります。この場合は就業規則の作成と届出の義務が発生するため、雇用形態ごとの人数を正確に把握しておきましょう。

役員や派遣社員は人数に含まれない

会社経営に携わる取締役などの役員は労働契約を結んでいないため、従業員の人数には含まれません。また、派遣社員は派遣元企業と雇用契約を結んでいるため派遣先企業の人数からは除外されます。

ただし、役員であっても「使用人兼務役員」として労働者としての実態がある場合はカウントの対象になることがあります。自社で働くスタッフの契約形態を改めて確認し、正しく分類することが大切です。

企業全体ではなく事業場単位でカウントする

従業員数は企業全体の合計ではなく、本社や支店といった「事業場単位」でカウントするのが原則です。そのため、企業全体で50人の従業員がいても各店舗が10人未満であれば作成義務は生じません

逆に、本社に15人、支店に5人の従業員がいる場合、本社のみに就業規則の作成と届出の義務が発生します。複数の拠点を持つ企業は、それぞれの事業場ごとに人数を管理する必要があります。

従業員10人未満で就業規則を作成する4つのメリット

法律上の義務がなくても、小規模な企業が就業規則を作成することには多くの利点があります。単なるルールブックとしてだけでなく、会社を守るための経営リスク防止策として機能するからです。

ここでは、従業員10人未満の企業が就業規則を整備することで得られる具体的なメリットを4つ紹介します。自社の労務管理を向上させるための参考にしてください。

労使間のトラブルを未然に防ぐことができる

就業規則で労働条件や服務規律を明文化しておくことで、従業員との認識のズレを防ぐことができます。残業代の計算方法や休日の取り方などが明確になり、無用な労使トラブルを未然に回避することが可能です。

また、万が一問題行動を起こす従業員がいた場合でも、就業規則に懲戒処分の規定があれば適切に対処できます。ルールがない状態での処分は不当解雇などのリスクを伴うため、事前の備えが重要です。

キャリアアップ助成金などの申請要件を満たせる

厚生労働省が提供する雇用関連の助成金を活用する際、就業規則の提出が要件となるケースが少なくありません。たとえばキャリアアップ助成金では、正社員化などの制度を就業規則に明記していることが必須条件となります。

従業員10人未満で労働基準監督署への届出をしていない場合でも、申立書を添付することで助成金申請が認められることがあります。将来的な資金調達の選択肢を広げるためにも、早めの整備がおすすめです。

労働環境が明確になり採用力が強化される

就業規則がしっかりと整備されている企業は、求職者に対してクリーンで信頼できる印象を与えます。労働時間や休暇制度などの条件が明確に提示されるため、入社後のミスマッチを防ぎ採用力を強化できるのがメリットです。

特に小規模な企業では、労働環境への不安から応募をためらう求職者も少なくありません。ルールが明文化されていることをアピールできれば、優秀な人材の確保にもつながりやすくなります。

職場のルールが統一され従業員の安心感が高まる

全員に共通のルールが適用されることで、特定の従業員だけが優遇されるような不公平感をなくすことができます。評価基準や労働条件が透明化され、従業員が安心して業務に集中できる環境が整います

ルールが曖昧なままだと、その都度経営者のさじ加減で判断されることになり、従業員の不満が溜まりやすくなります。統一された基準を示すことは、組織全体のモチベーション向上にも効果的です。

従業員10人未満で就業規則を作成する3つのデメリット

はた楽 就業規則作成義務 従業員10人未満

就業規則の作成には多くのメリットがある一方で、小規模企業ならではの注意点も存在します。ルールを明文化することによって、これまで通りの自由な経営が難しくなる側面があるからです。

ここでは、従業員10人未満の企業が就業規則を作成する際に直面しやすい3つのデメリットを解説します。導入前にこれらの懸念点を把握し、適切な運用方法を検討しましょう。

会社のルールが固定化され柔軟性が低下する

就業規則を作成すると、会社側もそのルールに縛られることになり、個別事情に応じた柔軟な対応が難しくなります。これまでは経営者の裁量で特例を認めていたようなケースでも、規則に反する対応は従業員間の不公平感を生む原因になります。

また、一度定めた労働条件を会社都合で不利益に変更することは法律上厳しく制限されています。そのため、将来の経営状況の変化も見据えた上で、慎重にルールを設計しなければなりません。

作成や運用に時間とコストがかかる

自社の実態に合った就業規則を一から作成するには、労働基準法などの専門知識が必要となり多大な時間がかかります。社会保険労務士などの専門家に依頼する場合は、数十万円程度の作成費用が発生するのが一般的です。

さらに、作成後も従業員への説明会を実施したり、社内システムに掲示したりといった運用の手間がかかります。小規模な企業にとっては、これらの時間的・金銭的コストが負担になることがあります。

法改正や事業拡大に合わせて見直す手間が生じる

就業規則は一度作成して終わりではなく、労働関連法令の改正があるたびに内容をアップデートする必要があります。古い法律に基づいた規則を放置していると、いざという時に法的に無効となりトラブルの原因になる恐れがあります。

また、事業の拡大に伴って新たな手当を導入したり、勤務形態を変更したりする際にも改定作業が伴います。常に最新の状態を維持するためのメンテナンスの手間がかかる点は、あらかじめ理解しておきましょう。

従業員10人未満でも36協定の届出は義務になる

就業規則の作成義務がない10人未満の企業であっても、法定労働時間を超えて残業や休日出勤をさせる場合は36協定の締結と届出が必要です。36協定(時間外・休日労働に関する協定届)は、従業員が1人でもいる事業場で時間外労働をさせるなら必ず提出しなければなりません

この届出を行わずに残業をさせると労働基準法違反となり、罰則が科される可能性があります。就業規則が不要だからといって労務関連の手続きがすべて免除されるわけではないため、十分な注意が必要です。

従業員10人未満向けの就業規則を作成する4つのステップ

はた楽 就業規則作成義務 従業員10人未満

実際に就業規則を作成する際は、法律で定められた正しい手順を踏むことが重要です。たとえ10人未満の企業であっても、適切なプロセスを経て作成・周知することで法的な効力を発揮します

ここでは、小規模企業が就業規則を導入するための具体的な流れを4つのステップに分けて解説します。スムーズに運用を開始できるよう、全体像を把握しておきましょう。

1. 厚生労働省のひな形を活用して原案を作成する

まずは、厚生労働省がウェブサイトで公開している「モデル就業規則」などのひな形をダウンロードしてベースにします。そこに自社の労働時間、休日、賃金規定などを当てはめ、実態に即したオリジナルの原案を作成していくのが効率的です。

ただし、ひな形をそのまま丸写しすると、自社の運用と合わずに後々トラブルになる可能性があります。必ず内容を精査し、必要に応じて社会保険労務士などの専門家にアドバイスを求めることをおすすめします。

2. 従業員の過半数代表者から意見を聴取する

原案が完成したら、労働基準法第90条の定めに従い、従業員の過半数を代表する者から内容についての意見を聴取します。この手続きは、会社が一方的にルールを押し付けるのを防ぎ、労使間の合意形成を図るために不可欠です。

聴取した意見は「意見書」として書面にまとめますが、令和3年4月の省令改正により代表者の押印や署名は不要となり、氏名の記載(記名)のみで受理されます。仮に反対意見が出た場合でも就業規則の効力自体は生じますが、運用上のトラブルを避けるためにも真摯に対応しましょう。

3. 労働基準監督署へ就業規則と意見書を届け出る

従業員10人未満の事業場では労働基準監督署への届出義務はありませんが、将来的な人員増加を見据えて任意で提出することが可能です。作成した就業規則の原本に、ステップ2で作成した意見書を添付して所轄の労働基準監督署へ提出します。

また、助成金の申請を予定している場合は、届出印のある就業規則が求められるケースが多いため提出しておくと安心です。郵送や電子申請での提出にも対応しているため、自社に合った方法を選びましょう。

4. クラウドシステムなどを活用して従業員へ周知する

就業規則は作成して終わりではなく、従業員がいつでも内容を確認できる状態にして初めて法的な効力を持ちます。社内の見やすい場所に掲示するほか、労務管理のクラウドシステムや共有フォルダを活用してデータで共有するのが現代的です。

周知が不十分だと、いざという時に「そんなルールは知らなかった」と反発を招く原因になります。入社時のオリエンテーションで説明の時間を設けるなど、確実な周知を徹底してください。

従業員10人未満で作成義務がなくても就業規則を整備しよう

従業員が10人未満の企業には就業規則の作成義務はありませんが、労使トラブルの防止や助成金申請の観点から整備するメリットは絶大です。ルールを明文化することで、従業員が安心して働ける環境が整い、結果として企業の成長を後押しします。

作成には一定の手間やコストがかかりますが、将来的なリスクを回避するための投資と考えれば非常に有益です。まずは厚生労働省のひな形などを参考に、自社の実態に合ったルールの整備から始めてみましょう。

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