こども性暴力防止法とは?2026年施行に向けた制度概要と必須の労務対応

佐藤東 監修者
社会保険労務士法人はた楽/株式会社はた楽
CEO / Founder
佐藤 東

大阪市立大学(現:大阪公立大学)法学部在学中に、社会保険労務士資格を取得。
株式会社新経営サービスにて、人事制度構築コンサルティングに従事。株式会社アントレプレナーファクトリー執行役員を経て、株式会社はた楽(人事コンサルティング&介護事業)、社会保険労務士法人はた楽を設立。労務DX&給与労務BPOを強みに、全国でサポートを展開中。

はた楽 こども性暴力防止法(日本版DBS)2026年12月施行の概要

こども性暴力防止法(日本版DBS)とは?2026年12月施行の概要

こども性暴力防止法は、教育や保育の現場で子どもを性暴力から守るために2024年6月に成立した新しい法律です。この法律は2026年12月25日に施行される予定であり、通称「日本版DBS」とも呼ばれています。

子どもと接する業務に就く人に対して、過去の性犯罪歴の有無を確認する仕組みが導入されます。事業者は施行に向けて、制度の概要を正しく理解し、必要な準備を進めることが求められます。

制度創設の背景と「性暴力」「不適切な行為」の定義

近年、学校や保育所などで子どもに対する性犯罪が後を絶たず、子どもを性暴力から守るための法整備が急務となっていました。性犯罪を犯した者が再び子どもに接する職に就くことを防ぐため、公的な確認システムが創設されることになりました。

法律における「性暴力」には、身体への接触や盗撮などの犯罪行為だけでなく、子どもを不快にさせる性的な言動も含まれます。また、SNSでの私的なやり取りや休日に二人きりで会うといった「不適切な行為」も防止の対象として定義されています。

自社は対象?「義務対象事業者」と「認定対象事業者」の違い

こども性暴力防止法では、事業者の性質によって「義務対象事業者」と「認定対象事業者」の2つに区分されます。自社がどちらに該当するかを正しく把握することが、制度対応の第一歩となります。

区分対象となる主な施設・事業対応の義務
義務対象事業者学校、認可保育所、児童福祉施設法律による実施義務あり
認定対象事業者学習塾、スポーツクラブ、認可外保育任意の認定申請により対象化

認定事業者が取得できる「こまもろう」マークのメリット

学習塾などの民間事業者が国の認定を受けると、「こまもろう」という専用の認定事業者マークを広告やウェブサイトに表示できるようになります。このマークは性犯罪防止に取り組んでいる証となり、保護者からの信頼獲得に直結します。

また、認定を受けることで、行政のシステムを通じて従業員の性犯罪歴を正確に確認することが可能になります。採用時のミスマッチを防ぎ、子どもたちが安心して通える環境をアピールできることが大きなメリットです。

事業主に求められる4つの義務と「こまもろうシステム」

はた楽 こども性暴力防止法が事業主に求める4つの義務

こども性暴力防止法の対象となった事業者は、子どもたちの安全を守るために複数の厳格な措置を講じる必要があります。具体的には大きく分けて4つの義務が課せられ、これらを確実に実行する体制づくりが求められます。

これらの義務を果たすための基盤となるのが、国が提供する「こまもろうシステム」という専用のオンラインシステムです。事業者はこのシステムを通じて、従業員の犯罪事実確認や行政への定期報告を行うことになります。

1. 犯罪事実確認(日本版DBSへの照会)の義務

事業者は、子どもと接する業務に就く従業員に対して、過去の特定性犯罪前科がないかを確認する義務を負います。採用時だけでなく現職者に対しても確認が必要であり、その後も定期的な照会が求められます。

この確認は「こまもろうシステム」を通じて国に申請し、犯罪事実確認書の交付を受ける形で行われます。照会できる期間は、実刑の場合は刑の執行終了から20年、執行猶予の場合は裁判確定から10年、罰金の場合は刑の執行終了(完納)から10年と定められています。

2. 性暴力防止措置・接触禁止措置の義務

犯罪事実確認の結果、従業員に特定性犯罪の前科があることが判明した場合、事業者は直ちに防止措置を講じなければなりません。該当者を子どもと接する業務に従事させないことが法律で厳格に義務付けられています。

また、前科がなくても、子どもや保護者から被害の申し出があった場合など、性暴力のおそれがあると認められる状況では迅速な対応が必要です。事実関係を調査し、必要に応じて接触禁止などの安全確保措置を実施することが求められます。

3. 日常的な安全確保と相談体制の整備義務

犯罪歴の確認だけでなく、日常的な業務の中で性暴力を未然に防ぐための環境整備も事業者の重要な義務です。死角のない施設環境の構築や従業員向けの研修を定期的に実施する必要があります。

さらに、子どもや保護者が安心して相談できる窓口を設置し、相談しやすい体制を整えることも求められます。不適切な行為の早期発見につながるよう、日頃から子どもたちとの面談等を行うことも推奨されています。

4. 厳格な情報管理と秘密保持の義務

従業員の犯罪歴という極めて機微な個人情報を取り扱うため、事業者には厳格な情報管理措置が義務付けられます。システムにアクセスできる担当者を限定するなど、情報漏洩を防ぐための社内規程の策定が必須です。

取得した犯罪事実確認記録は目的外の利用や第三者への提供が固く禁じられており、確認の必要がなくなった後は速やかに廃棄・消去しなければなりません。この廃棄義務に違反した場合は、50万円以下の罰金が科される可能性があります。

照会に必須となる「GビズID」取得とシステム登録

「こまもろうシステム」を利用するためには、行政サービスへのログインに用いる「GビズID(プライム)」の取得が不可欠です。施行直前は申請が混み合うことが予想されるため、早めに取得手続きを完了させておくことが推奨されます。

GビズIDを取得した後は、システム上で事業者のアカウント登録や対象となる従業員の情報登録を進めることになります。特に義務対象事業者は、施行前に職員のアカウントまとめ登録を行うスケジュールが組まれています。

【労務対応1】就業規則の改定と整備すべき4つのポイント

こども性暴力防止法の施行に伴い、事業者は従業員の労務管理に関するルールを大幅に見直す必要があります。トラブルを未然に防ぐためには就業規則の改定が必須であり、施行前に準備を完了させなければなりません。

就業規則には、制度の対象となる業務の範囲や、従業員が遵守すべき事項を明確に記載することが求められます。具体的に整備すべき4つの重要なポイントについて、順番に詳しく解説していきます。

1. 照会への同意義務と「不適切な行為」の明確化

就業規則には、従業員が日本版DBSによる犯罪事実確認の手続きに同意し、応じる義務があることを明記する必要があります。業務命令として照会を実施できる根拠を定めておくことで、プライバシーを理由とした拒否を防ぐことができます。

また、法律が禁止する「児童対象性暴力等」や、それに繋がる「不適切な行為」の具体的な範囲を規則内で定義することも重要です。SNSでの私的な連絡などを禁止事項として明文化し、従業員に周知徹底することが求められます。

2. 採用内定取消や試用期間の解約事由の追加

採用選考の過程や内定後に性犯罪歴が判明した場合に備え、内定取消しの事由を就業規則に定めておく必要があります。特定性犯罪事実該当者であることが確認された場合を、明確な取消し事由として追加してください。

同様に、入社後の試用期間中に犯罪歴が発覚した場合の解約事由についても規定を整備することが不可欠です。あらかじめルール化しておくことで、子どもと接する業務への従事を適法かつ速やかに防ぐことが可能になります。

3. 経歴詐称による懲戒処分と解雇の根拠

採用時に性犯罪前科がないと申告していたにもかかわらず、後の照会で虚偽が発覚した場合の対応も規定しなければなりません。重要な経歴の詐称として懲戒処分の対象となる旨を、就業規則の懲戒事由に明記することが求められます。

経歴詐称や不適切な行為を行った従業員に対して、厳格な処分や解雇を行うための法的な根拠を整えておくことが重要です。これにより、企業秩序を維持し、子どもたちの安全を最優先する組織体制を構築できます。

4. 犯罪歴判明時の配置転換に関する規定

現職の従業員に性犯罪歴があることが判明した場合、直ちに解雇するのではなく、まずは子どもと接しない業務へ異動させる必要があります。事業主の権限で配置転換を命じることができるよう、就業規則に異動の根拠規定を設けてください。

事務職や清掃業務など、直接子どもと関わらないポジションへの配置転換は、法律が求める防止措置の基本となります。業務内容の変更や出向を命じる可能性があることを、あらかじめ規則に定めておくことが実務上極めて重要です。

【労務対応2】採用フローの見直しと「条件付内定」の活用

はた楽 こども性暴力防止法対応の採用フロー見直し

こども性暴力防止法の施行後は、新規採用のプロセスにも大きな変更が生じるため、採用フロー全体の再構築が必要です。犯罪事実確認の手続きを採用活動に組み込むことが、今後の人材確保において必須となります。

特に、照会結果が出るまでの期間をどのように扱うかが、実務上の大きな課題として浮上します。求人募集から内定、そして実際の勤務開始に至るまでの各ステップで、適切な労務対応を行うことが求められます。

求人票への記載による心理的抑止効果

採用活動の入り口となる求人票や募集要項には、特定性犯罪前科がないことが採用条件であることを明記する必要があります。採用にあたり性犯罪歴の確認を実施すると記載することで、透明性を確保できます。

この明記は、労働法上のトラブルを防ぐための重要な布石となるだけでなく、過去に問題を起こした人物の応募を防ぐ効果もあります。募集段階で条件を提示することは、強力な心理的スクリーニングとして機能します。

選考段階での意向確認と同意取得の徹底

面接などの選考過程においては、応募者に対して制度の趣旨や犯罪事実確認の対象となることを直接説明し、理解を得ることが重要です。履歴書の提出時や内定前に誓約書を取得するなど、書面での同意を徹底してください。

応募者から事前に同意を得ておくことで、その後のシステムを通じた照会手続きをスムーズに進めることができます。また、虚偽の申告があった場合に「経歴詐称」として適法に対処するための重要な証拠にもなります。

照会結果のタイムラグを考慮した採用スケジュール

日本版DBSの照会申請から結果の通知までは、日本国籍の場合で2週間から1ヶ月程度の時間がかかると想定されています。原則として結果が出る前に勤務を開始させることはできないため、余裕を持った採用スケジュールを組む必要があります。

急な欠員等の場合は厳格な安全管理措置を条件とする「いとま特例」もありますが、基本的には犯罪歴がないことを条件とする「条件付内定」を活用することが実務上の有効な手段となります。内定通知書に条件を明記し、結果が判明してから正式な雇用契約を結ぶフローを構築してください。

【労務対応3】現職者に犯罪歴が判明した場合の法的対応

制度施行後、すでに雇用している現職の従業員に対して犯罪事実確認を行った結果、性犯罪歴が判明するケースも想定されます。この場合、事業者は直ちに防止措置を講じるという重い法的責任を負うことになります。

しかし、労働法による保護があるため、事業者の独断で不利益な処分を強行することは労働トラブルに直結します。法律の要請と労働者の権利のバランスを取りながら、慎重かつ段階的な対応を進めることが不可欠です。

即時解雇はリスクあり?まずは「配置転換」を検討

現職者に犯罪歴が発覚したからといって、即座に懲戒解雇を行うことは不当解雇とみなされるリスクが非常に高くなります。まずは子どもと接しない業務への配置転換を命じることが、実務上の第一選択となります。

事務作業や清掃、夜間の警備など、対象業務以外のポジションへ異動させることで、法律が求める安全確保措置を満たすことができます。就業規則の規定に基づき、雇用を維持したままリスクを排除する努力が求められます。

配置転換が困難な場合の「退職勧奨」と合意解約

小規模な事業所などで、子どもと接しない業務のポジションを用意できず、配置転換が物理的に不可能なケースも存在します。その場合は従業員との話し合いによる退職勧奨を行い、合意退職を目指すことになります。

制度の趣旨や現在の業務を継続できない理由を丁寧に説明し、双方が納得した上で労働契約を解約することが最も安全な解決策です。強要と受け取られないよう、面談の記録を残しながら慎重に交渉を進める必要があります。

最終手段としての「解雇」と解雇回避努力の記録

配置転換の余地がなく、退職勧奨にも応じてもらえない場合の最終手段として、普通解雇を選択せざるを得ない状況が生じます。解雇の有効性を主張するためには解雇回避努力を尽くしたという客観的な事実が必要です。

異動先の検討プロセスや退職勧奨の面談内容など、事業者が雇用維持のために行った努力を詳細な記録として残しておくことが重要です。労働トラブルに発展した場合に備え、専門家である社会保険労務士や弁護士に相談しながら進めてください。

こども性暴力防止法の労務対応は施行前に計画的な準備を

こども性暴力防止法は、子どもたちの安全を守る画期的な制度である一方、事業者には多岐にわたる厳格な対応を求めています。就業規則の改定や採用フローの見直しなど、労務管理上の課題は施行前に解決しておく必要があります。

2026年12月の施行に向けて、GビズIDの取得や社内体制の整備など、今から着手できる準備は数多く存在します。制度の趣旨を深く理解し、計画的に対応を進めることで、保護者や社会から信頼される健全な事業運営を実現しましょう。

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